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岡山県が独自配布するリーフレットが不適切であることを指摘し、使用の中止等を要請しました

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2019年10月25日、HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団は、岡山県に対し、子宮頸がんの予防に関するリーフレット「娘さんを持つ保護者の方へ」に関する申入書を提出し、岡山県が独自配布するリーフレットの内容が不適切であることを指摘し、その使用中止等を求めました。

 

                                             2019年10月25 日

岡山県知事 伊原木隆太殿      

 

子宮頸がんの予防に関するリーフレット 「娘さんを持つ保護者の方へ」に関する申入書

                HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団

                          共同代表 弁護士 水口真寿美                           共同代表 弁護士 山西 美明                                   (連絡先)

     〒530-0047 大阪市北区西天満4-4-13 三共ビル梅新8階 共立法律事務所                                 TEL 06-6365-9445                 HPVワクチン薬害訴訟大阪弁護団 弁護士 幸長裕美  

 私たちは,HPVワクチン薬害訴訟の全国弁護団です。HPVワクチン薬害訴訟は,HPVワクチンの深刻な副反応症状に苦しむ若い女性たちが,被害救済を求めて,4つの地方裁判所に訴訟を提起しているものであり,全国の原告数は,既に130名を超えています。  

 2019年8月に岡山県保健福祉部健康推進課が作成された,子宮頸がんの予防に関するリーフレット「娘さんを持つ保護者の方へ」(以下,「岡山県2019年リーフレット」といいます。)の内容には,以下に記載する問題点があり,これによる情報提供は不適切であると考えます。  

 ついては,以下のとおり求めます。

 

第1 申し入れの趣旨  

 

 岡山県2019年リーフレットについて

 

1 情報提供の資料として使用することを中止し,接種対象者への個別通知(郵送または学校を通じての配布)等を行わないこと

 

2 仮に,既に,接種対象者に個別通知(郵送または学校を通じての配布)をされたのであれば,応急的措置として,厚生労働省作成にかかる平成25年6月版「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」を,岡山県2019年リーフレットを配布されたのと同じ方法により,直ちに配布することを求めます。

 

第2 申し入れの理由

 

1 厚生労働省がHPVワクチン接種の積極的勧奨を一時中止していることが明記されていません

 

(1)HPVワクチンについて,厚生労働省は,都道府県に対し,接種の積極的勧奨の一時中止を勧告しており,市町村長は,接種の積極的勧奨をしてはならないこととされています(平成25年6月14日付都道府県知事宛厚労省健康局長通知 以下,「平成25年6月勧告」といいます。)。定期接種ワクチンでありながら,積極的推奨をしないよう勧告することは,異例の措置です。  

 したがって,HPVワクチン接種について説明する場合には,定期接種ワクチンではあるものの,厚生労働省は積極的勧奨を一時中止していることを,接種対象者が容易に認識できるよう明記して説明することが必要です。

 

(2)厚生労働省作成にかかる平成30年1月版リーフレット(以下,「平成30年版厚生労働省リーフレット」といいます。)の保護者向けリーフレットにおいても,「積極的におすすめすることを一時的にやめています」と明記され,平成25年6月版「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」(以下,「平成25年6月版厚生労働省リーフレット」といいます。)では,より目立つように明記されています。

 

(3)しかし,岡山県2019年リーフレットは,定期接種であると記載するのみで,国が積極的勧奨を一時中止していることを目立つように記載しておらず,接種対象者に対しワクチン接種を受けるよう誘導する内容となっていますので,これを接種対象者に配布することは,前記平成25年6月勧告に抵触します。  

 仮にこれを個別に通知することとなれば,前記平成25年6月勧告が,予防接種法施行令第6条の周知について,「ただし,その周知方法については,個別通知を求めるものではないこと」とあえて記載したことにも反し,同勧告に抵触する結果となります。

 

2 HPVワクチンによって重篤な副反応が生じる危険性を伝えていません

 

(1)前記平成25年6月勧告により,市町村長は,HPVワクチン接種の有効性及び安全性等について十分に説明することを求められています。

 

(2)HPVワクチンについては,副反応症状として,運動に関する障害(不随意運動,脱力,歩行障害等),感覚に関する障害(全身の激しい疼痛,光過敏等),自律神経や内分泌に関する障害(睡眠障害,体温調節障害,排尿障害等),認知機能や精神機能に関する障害(学習障害,記憶障害,全身倦怠感等)等,全身に及ぶ多様な症状が報告されています。これらの症状は,一人の患者に重層化して発現し,増悪と寛解を繰り返すという特徴があります。そして,治療法は確立していません。副反応症状を発症した者は,これらの重篤な症状に接種後10年近くたった今も苦しんでおり,これによって,生活が一変し,夢を奪われた被害者も多数います。  

 しかも,HPVワクチンは,重篤な副反応が他の定期接種ワクチンに比して高い頻度で発生しており,予防接種の救済制度における認定例のうち,障害(障害年金・障害児養育年金の支給対象)と死亡の認定頻度が,主な他の定期接種ワクチンの平均値より10倍近くも高くなっています。  

 HPVワクチンについて情報提供をする以上は,このような重篤な副反応症状が起こりうることを知らせることは当然です。原告らのように重篤な副反応症状で苦しむこととなったときに,副反応について説明されていない,こんなはずではなかったということにならないよう,危険性を知ったうえで自己決定ができるようにするため,十分に情報を提供する必要があります。

 

(3)しかし,岡山県2019年リーフレットでは,「接種した部位の痛みや腫れ,赤み」,「まれに発熱やじんましん」などの症状が起こることがあるとの記載しかありません。  

 ワクチン接種後に広範囲の痛み等の症状が報告されているとの記載はありますが,これはHPVワクチン接種歴がなくても一定数存在する旨の記載があり,ワクチン接種とは関係がないと受け止めさせてしまう内容になっています。

 

(4)この点について,平成30年版厚生労働省リーフレットにおいても,医療従事者向けリーフレット(「HPVワクチンの接種に当たって 医療従事者の方へ」)には,不十分ながら(※1),感覚障害,運動障害,自立神経障害,認知機能障害が報告されていることについての記載があります。  

 また,平成30年版厚生労働省の保護者向けリーフレット(「HPVワクチンの接種を検討している お子様と保護者の方へ」)は,認知機能障害に関する記載がないなどの点で医療従事者向けのものからさらに不十分ではあるものの(※1),少なくとも,添付文書に記載されている副反応症状を記載しているほかに,「まれですが重い症状が報告されています」というタイトルの下,アナフィラキシー,ギランバレー症候群,急性散在性脳脊髄炎(ADEM)等の重篤な症状報告があることを特に説明しています。そして,平成29(2017)年8月までに医師又は企業が重篤と判断した副反応疑い報告数が 1,784人(10万人あたり 52.5人)であることも記載され,重篤な副反応が生じうることが,報告を受けた数によっても示されています。

 

(5)このように,岡山県2019年リーフレットにおけるHPVワクチンの副反応に関する記載は,平成30年版厚生労働省リーフレットと比較しても,不正確・不十分であることが明らかです。  

 

(※1) 平成30年版厚生労働省リーフレットの記載が不十分であることについては,当弁護団の厚生労働大臣宛「HPVワクチン新リーフレットの全面修正を求める緊急要望書」をご参照ください。 https://www.hpv-yakugai.net/2018/01/19/statement/

 

3 HPVワクチンの有効性の限界を適切に伝えていません

 

(1)前記のとおり,平成25年6月勧告により,市町村長は,HPVワクチン接種の有効性及び安全性等につ いて十分に説明することを求められています。

 

(2)HPVワクチンが子宮頸がんを予防する効果は証明されていません。また,がんになる前の細胞の異形成,前がん病変を防ぐ効果についても,子宮頸がんの原因とされるハイリスクウイルスのうち16型と18型にしか認められず,しかも,その効果の持続期間として臨床試験で確認されているのは最長でも約9年です。

 

(3)この点,平成30年版厚生労働省の保護者向けリーフレット(「HPVワクチンの接種を検討している お子様と保護者の方へ」)は,前がん病変の予防効果の持続期間について触れていないという問題がありますが,それでも,子宮頸がんの予防効果が証明されていないことについては明記しています。  また,厚生労働省の同リーフレットの子宮頸がん検診を受けることを呼びかける記載がされている部分には,「HPVワクチンは,全てのタイプのHPVの感染を予防するものではありません」と改めて明記したうえで,「ワクチンで感染を防げないHPVが原因の子宮頸がんを予防するには,子宮けいがん検診を受診して,がんになる前の前がん病変の段階で早期発見する必要があります。」との記載がされ,HPVワクチンによる予防効果には,対応するHPVの型という大きな限界があること,そのため子宮頸がんの予防には検診が必ず必要であることを伝えようとする記載がなされています。

 

(4)ところが,岡山県2019年リーフレットは,前がん病変の予防効果の持続期間の限界について触れていないだけでなく,子宮頸がんの予防効果は証明されていないということも明記していません。  さらに,岡山県2019年リーフレットは,子宮頸がん検診については,「HPVワクチンを接種していても完全には子宮頸がんを予防できないため,検診も必要です。」との記載がされています。この説明では,HPVワクチンの接種によって,子宮頸がんは(完全ではないものの)ほぼ予防できるかのようであり,子宮頸がん検診は,念のために受けておいた方がよいものという受け止め方をされかねません。

 

(5)岡山県2019年リーフレットは,感染や前がん病変を予防する効果が確認されていることと子宮頸がんを予防することが期待されていることだけを記載し,子宮頸がんの予防効果は証明されていないという肝心なことをあえて記載せず,また,HPVワクチンには対応するHPVの型という点で予防効果に大きな限界があるために接種を受けても子宮頸がん検診は必須であるということを伝えない,不正確・不十分なものです。

 

4 紹介されている具体的症例及びその解説が不適切です

 

(1)岡山県2019年リーフレットでは,子宮頸がん検診を受けていたにもかかわらず,早期(Ⅰb1期)の子宮頸がんであることが分かり,胎児とともに子宮,卵巣,リンパ節を摘出した「赤ちゃんと子宮を一度に失った,希さんの症例」が,最終ページの大部分を使って,イラスト入りで記載されています。  

 しかし,日本婦人科腫瘍学会の編集による一般向けのガイドライン書籍では,妊娠中に子宮頸がんが発見された場合であっても,慎重な検討を前提とした上で,「ほとんどの場合は出産することが可能です」と説明されているところであり(※2),そもそも,どのような治療をどのような時期に受けるかは,個々の症例で異なります。にもかかわらず,これらを捨象して,この症例の結末だけを述べ,「子宮頸がんは希さんから夢を奪っていきました。」と締めくくることは,「早期がんの段階で発見できても,妊娠は継続できず,子宮を直ちに切除するしかない」との誤解を与えるものです。  

 しかも,ここで取り上げられた症例は,直近の検診実施が2年前ではなく,3年前であった症例です。子宮頸がん検診には,HPVの型を問わず子宮頸がんを予防する効果が証明されており,2年に一度の受検が推奨されています(厚生労働省健康局長平成20年3月11日通知にかかるガイドライン)。希さんの症例は,2年に一度の検診実施の重要性を示す症例であるはずですが,岡山県2019年リーフレットは,その点をとりあげるのではなく,「それだけの準備をしていても,子宮頸がんは希さんから夢を奪っていきました。」として,検診では子宮頸がんを防げないとの誤った印象を植え付けています。  

 したがって,希さんの症例の紹介は,症例の選択の点においても,説明の点においても適切とはいえません。

 

(2)また,子宮頸がん罹患率について,1985年と2014年を比較するグラフを示して20代から30代で増加しているとしている点にも問題があります。  

 1985年から2014年の間に,上皮内がんに高度異形成まで含めるように統計の基準上の変更がありました。そのため上皮内癌を含むグラフでは子宮頸がんが増えたようにみえることがあります。また,近年,子宮頸がん検診対象年齢の引き下げ,妊婦健診の拡大などで,若年層の検診の受診機会が増え,細胞診の精度管理の向上が図られた結果,検診における子宮頸がんの早期発見が進んでいます。こうした事情を考慮せず,分類基準が異なり比較に適さないデータを一つのグラフで示したうえで,20代から30代に子宮頸がんが増加している等と指摘することは適切ではありません。

 

(3)このように,岡山県2019年リーフレットは,不正確・不十分な情報により,子宮頸がんの疾病リスク・重篤性を不適切に強調し,接種対象者に不安をあおるものといわざるを得ません。

 

(※2) 日本婦人科腫瘍学会編「患者さんとご家族のための 子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん 治療ガイドライン」(2016年4月金原出版(株)刊)

 

5 まとめ  

 

 以上のとおり,岡山県2019年リーフレットは,厚生労働省がHPVワクチンの積極的勧奨を中止していることを接種対象者に容易に認識できるように明記しない一方で,HPVワクチンによる重篤な副反応が報告されていることや,その有効性に限界があることを伝えず,子宮頸がんについて不適切な症例やグラフを示すなどして子宮頸がんへの不安をいたずらにあおり,全体として,HPVワクチンの接種を積極的に勧奨するのに等しい効果をもたらすものとなっており,不適切です。  

 

 したがって,岡山県2019年リーフレットを情報提供の資料として使用することを中止し,接種対象者への個別通知(郵送または学校を通じての配布)等を行わないことを求めます。また,仮に,既に,接種対象者に個別通知(郵送または学校を通じての配布)をされたのであれば,応急的措置として,既に送付したリーフレットに不適切な記載があったことを伝える書面及び厚生労働省作成にかかる平成25年6月版「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」を,岡山県2019年リーフレットを配布されたのと同じ方法により,直ちに配布することを求めます。

                                          以上

 

【添付資料】

平成25年6月14日付都道府県知事宛厚労省健康局長通知(「平成25年6月勧告」)

 

2 平成25年6月版厚生労働省リーフレット「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ

 

3 HPVワクチンと他の予防接種ワクチンとの副反応に関する比較表(厚生労働省の担当部会資料よりとりまとめ)  

(表1)副反応報告件数  

(表2)副作用被害救済件数

 

4 「HPVワクチン薬害訴訟・原告の声 ~提訴から3年を経た今の思い~」(2019年7月19日 HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団編)           

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